指導医の役割

はじめに

内科専門医を受験するには5年の研修期間が必要である。卒後2年の間では、手取・足取りの教育でもよいが、卒後3年目以降では問題が生じた時にのみ適切なアドバイスをおくれればよい。本論文では、主に卒後2年目までの研修医に対する指導医の役割を述べる。

 

望ましい指導体制とは

各研修指定病院により指導体制は異なっていると思われるが、まず私が考えている案を以下に提示する。

現在、研修指定病院で研修医の指導責任者となっていることが多い各専門診療科の部長は、科(部)の長としての雑用が多く、各研修医を実地に指導する時間を作ることができない。そのため、専門診療科の長と対等する形で、研修医を統括する専任の医師が必要である。その医師の下に、日本の医療レベルを上げるためには研修医教育が重要であると認識する医師を各診療科から選択し、病院が彼らを指導医に任命する。任命された指導医は、その病院の研修プログラムに対して研修医および医学教育学会での他病院からの評価を受け、目標・方略を適宜修正していく責任を持つ。これらの指導医は、膨大な時間を要する研修プログラムの遂行に対して責任を負う変わりに、科における仕事の負担を軽くし、指導することも一つの仕事であるということを病院の職員その他に周知・徹底させる必要がある。

多く研修医が卒後研修を受ける大学病院では、佐賀医大のように「よい臨床医を排出することを大学の使命とする」旨を書面で明記すべきである。卒前・卒後研修を統括する部署として、研修教育部(総合診療部)を作り、そこで毎年行っている教育内容、その効果について当該学会で発表・論文とし、他の病院からの評価をえることが必要である。総合診療部を専門診療科からの横流れや、大学院大学に移行するためのポストとはせず、よい臨床医を排出し日本の医療レベルを上昇させることを設立の第一の目標として、その長を決定すべきである(1)。

 

望ましい指導医とは

人を教育することは時間を要し、教育効果がすぐに形としては現れにくい。指導医には、自分が教えた若い医師が臨床能力を向上させ、良質な医療を世に提供することを、研究者にとって自分の研究が一流雑誌に掲載され世界に注目されることに等しいと思える人間で、かつ、教育病院で最低5年以上の内科の臨床研修を受けてきた卒後10年前後の医師が適すると思われる。指導医は、内科全般に精通しながら自分の得意分野をもち、各専門診療科で実際に専門診療も行う。研修医には自分の細かい専門分野を全て教えるのではなく、初期2年間で研修医が習得すべき到達目標につき自分なりのガイドラインをもっていることが必要である。同時に、指導医自身も自分の専門以外のことについては、これを生涯教育として習得すべき他科の知識ととして研修医と一緒に勉強する態度を持っていることが必要である(2)。

 

何を教えるか

内科専門医試験におけるガイドラインは、各専門医自身が作成しているため、高度な内容となり、このすべてを研修期間で習得するのは困難であるように思える。研修医の中には、専門すぎる知識の習得を強要されるために憔悴してしまう人間もいる。各病院における指導医はこのminimum requirementについて論議し、各病院におけるおおよそのガイドラインが必要である。

研修医にどのような患者を受け持たすかも、指導医の重要な仕事である。救急外来から入院した患者に対しては、例え超専門的な検査や治療が入院後に必要となったとしても主治医となるのは妥当であるが、超専門的な検査のみを必要とする予定入院患者に対して研修医を主治医とするのは感心しない。

医学判断学以外にも、臨床倫理、死生観は具体的な患者を提示してカンファランスで論議する必要がある。そのなかで正解はないが自分なりの意見をもてるように導いていき、医療は医学判断以外に多くの因子で決定されているという事実を認識させることは重要である。

Evidence Based Medicineを習得し、問題解決の方法、文献の批判的読み方、科学的な考え方の基礎を教える。

 

どのように教えるか

教科書ではなく症例を実体験させることにより、学習の動機を高め、一生にわたる勉強の必要性を理解させる。アメリカでいう、“See one, do one and teach one”の発想が必要である。研修は、屋根瓦式システムとして、研修時代(卒後5年まで)は下級研修医に対する指導を義務として、教えることにより自分の知識が整理できることを体感させる(3)。患者を主治医として管理し、かつ注意深く観察することにより、患者から学んでいく姿勢を身につけさす。研修医が行う初めての処置を彼ら自身が実践するためには、指導医は辛抱強くなければいけない。もちろん、その処置を見たことなく、教科書も読んでない研修医にそれらの技術を教える必要はない。まず、他人(同級生)がある処置を行っているのを見学し、他人の患者をも診ることにより知識の共有ができるように方向づけることが重要である。

 

指導に対する阻害因子

その病院に採用された研修医のうち、やる気がなく、責任感のない人間に対してまでも手取・足取りで教える必要があるのだろうか?採用された研修医のうち、他人とうまく会話が出来ない1−2割の研修医のために、指導医はエネルギーを使い、疲れ果ててしまうことが多い。それだけ、エネルギーを使っても軌道修正が難しい人間に対しては、臨床医学以外の道へ導くことが必須になる(4)。

 

文献

1.伊賀幹二、石丸裕康 総合診療部の役割 内科臨床研修指導マニュアル

2. 伊賀幹二日本の卒前・卒後・生涯教育の問題点と可能なその改善策 内科専門医学会誌 2000;12:567-571

3. 伊賀幹二、石丸裕康、八田和大、今中孝信: 2年次研修医による1年次研修医に対するベッドサイド教育 1999;30:187-189

4.   伊賀幹二西和田誠、今中孝信: 当院の研修委員会で、過去5年間に問題となった初期研修医の分析 医学教育 2000:31:93-95

 

 

指導医の評価

はじめに

現在の日本における安価でアクセスのよい医療は、安い労働力としての研修医、指導医のボランチア活動により成り立っているといっても過言ではない。

 

評価の目的

私が医師になって22年が過ぎようとしているが、指導医として魅力的であったが大学では論文が少なかったため評価されず、40歳過ぎで開業していった人を多く見てきた。現在のように、研修医の指導がボランチア活動である限り、このようなことが今後も繰り返されるであろう。熱意があり優秀な指導医を大学病院や研修指定病院に引き留めることは、よい研修医教育を続けるために必要なことである。教育というものは本来無償で行うものであり、代償を求めるべきではない。”教え子”から慕われることほど、教師にとって喜ばしいことはない。しかし、指導医が日常業務で憔悴しないためにも、研修医教育を、所属科における通常の仕事をこなした上でのボランテイア活動としてではなく、業務の一つであるとの周囲の人間の認識が必要である。そのため、指導医に対して研修医指導を仕事として病院から任命するべきである。良質な医学教育を世に提供するために必要不可欠である臨床病院における指導者の義務と権利を明確にし、適切な評価とともに昇給および昇進の援助をすることは、将来の日本の医療を改善させる先行投資である。そのことを、国民にも理解させ、そのためには医療費が高くてもよいという認識が必要である。

 

評価の方法

研修指定病院、大学病院においては、指導医に対して研修医が6カ月ごとに無記名で評価を行う。2−3カ月単位の短期実習では、実習を担当した指導医に対する研修医からの評価を必ず病院に提出する。病院における研修の統括責任者を明確にし、それを仕事とする人間または機関を設定し、そこが指導医に対する研修医の評価をまとめて、指導医に対する評価として病院へ提出する。それを病院長(大学病院なら学長)が統括し、指導医の任命を解くかどうかを検討する。研修医と指導医という人間関係の問題から、ある指導医が全ての研修医から評価が高いということはありえない。それゆえ、病院からの指導医に対する評価はマイナス評価より、プラス評価を行うべきである。

 

何を評価するか

研修医は指導医と病院の研修カリキュラムの両方を評価する。指導医の知識・態度・技術に関して5段階の評尺度評価を行う(表1)。患者の受け持ち配分が妥当であったか、および、研修指導医が作成した研修プログラムに、前年の研修医からの意見(要望書)がどこに、どこまで、どのように反映されたかを評価する。

指導医によって作成された研修カリキュラムについて、研修医自身が到達度を自己評価すると同時に、カリキュラム自身をも評価する。これは間接的に指導医の評価となる(表2)。

 

表1 研修医からみた各指導医の評価項目(1−4の4段階評価)

主訴に対する系統的なアプローチを教える        1-4

研修医が受け持ちである患者の状態を把握している   1-4

研修医からの質問に適切に答える               1-4

研修医のカルテをチェックする                1-4

コンサルトにすぐ応じる                     1-4

受け持ち患者について医療倫理な観点を教える      1-4

専門的すぎることは強要された                 1-4

研修医からみてこの指導医はロールモデルになりえる  1-4

 

表2 カリキュラムに対する評価(1−4の4段階評価)

2年間の研修はカリキュラム通りであったか        1-4

到達目標は明確であったか                    1-4

到達可能な目標であったか                    1-4

その到達目標に対する方略は妥当であったか        1-4

そのための指導医の力量は十分であったか         1-4

十分な指導医数が存在したか                  1-4

指導医はカリキュラム通りに教えてくれたか       1-4

前年の要望書に取り上げられていた箇所が改善されたか1-4

病院のカリキュラムにおいて訂正できる個所を指摘し、自由な意見を述べてください